リーディングミュージアム (先進美術館) は「寄託」の改革に注力すべき

  1. 現代アート市場の評価軸は美術館では無く民間にある。
  2. 作品収集や研究活動への助成も市場への貢献は弱い。
  3. 寄託を税額控除オプションを伴う倉庫業へと拡張すべき。


先日、成長戦略の一環としてリーディングミュージアム (先進美術館) 制度が検討されているという報道がありました。

関連資料を見る限りこれは現代アートが対象で、助成金を通じて美術館に企画展や海外への情報発信を促し収蔵作品の価値を高めることを目指しているようです。

そのため資料ではアート市場活性化に向け美術館を「評価軸」としたい旨が繰り返し書かれています。

個人的にアート市場の活性化という目的には大賛成であるものの、この手段には改善の余地があると感じたため代案を含め思う所を記そうと思います。

 

現代アート市場の評価軸は美術館では無く民間にある:

何よりも強調すべきは、現代アートにおける評価主軸はあくまで民間の市場にあり、美術館はこのprivateな環境で育まれた美術的価値を作品収蔵を通じてpublicにする公的役割が主である点です (だからこそ税金の投入が正当化される) 。

確かに有名美術館への作品収蔵が決まったアーティストは市場での評価も高まりますが、これはその人が民間で生み続けた美術的価値が公共の文脈でも評価されたことが理由であり、言わば賞を取ったようなものです。

賞を作れば市場が活性化するのでは無く、市場が活性化すると賞への需要が生まれるのではないでしょうか。

そのため現代アート市場の活性化を目指すならば、美術館による評価軸作りよりもアーティスト・ギャラリー・コレクター・オークション・批評家らが活動しやすい環境作り、すなわちトップダウンよりもボトムアップ型の成長戦略について議論すべきと考えます。

また美術館に評価軸の役割まで担わせた場合、それが提示する (公共性を考慮せざるを得ない) 評価軸と現代アートの評価軸とが噛み合わなくなり、結果として助成金アートプロジェクトのように現代アート市場とは分断された別の市場が形成されてしまうことも懸念しています。

 

作品収集や研究活動への助成も市場への貢献は弱い:

このような役割の違いから、美術館本来の役割である作品収集や研究活動への助成もアート市場活性化に対する効果は薄いでしょう。

リーディングミュージアム制度に対する意見は自分が見る限りほぼ反対が占めており、その中には素直に美術館本来の業務へ助成すべきという主張も含まれますが、これには「現代アート市場の活性化という政策目的自体に反対」という隠れた前提があるように思われます。

これに対し自分は「現代アート市場の活性化という政策目的に賛成」かつ「民間の評価軸作りを補助する形での美術館改革は可能」と考える立場です。

経済規模の割に市場が未発達な国内の現代アートに強い問題意識を持っており、かつ美術館は従来の構造を維持したままで更なる助成が必要だという帰結が現状を打破するようにも思えないのです。

 

寄託を税額控除オプションを伴う倉庫業へ拡張すべき:

そこで現代アート市場活性化に向けた美術館改革案として、寄託制度の拡張を提案します。

寄託とは作品の所有権を維持したままその管理を美術館へ委任することであり、現在は (大量に寄託されても困るので) 学術的価値があると判断された文化財のみが対象となっています。

自分は、この対象範囲をアーティストやギャラリー及びコレクターらの作品へと拡張することが市場活性化に貢献すると考えます。

具体的には、学芸員が認めた相手に対して美術館の作品保管スペースを提供し、管理費を徴収することで倉庫業に近い形式で運用するのです。

作品保管場所の確保にかかる費用は現代アート市場参入の高い障壁となっているため、既にある箱物を活用して集約的かつ効率的に管理することには意義があるでしょう。

加えて「管理作品の美術館内での公開を条件に管理費の割引や税額控除を認める」と言ったオプションを付与することで、privateな美術的価値をpublicにするという美術館の公的役割も果たせそうです。

*この案に関連しそうな用語に freeport visible storage があります。前者は合法的な関税回避のためにコレクターやギャラリーが高額な美術作品を保管する倉庫を、後者は展示されていない美術館の所蔵作品も来場者に見える形で保管する試み (本記事のサムネイルはロンドンのV&Aによるvisible storage) を意味します。今回の提案は、税額控除のオプションを考慮すれば言わば public freeportと命名出来るかも知れません。

以上の制度ならば、価値付けに深く介入せず公的役割も果たす形で美術館によるアート市場の活性化が期待出来るでしょう。

 

おわりに:

国内の美術市場は現在規模が極めて小さいものの、アーティスト・ギャラリー・批評家・コレクターなどの各プレイヤーはそれなりに多く存在するように見受けられます。

そのため自分は、詰まっている部分さえ発見してインセンティブ設計を改善すれば市場が回り始めるような気がしてならず、もう少しで解けそうなパズルと向き合っているような感覚にしばしば陥ります。

美術館に倉庫業務を担わせる事は1つの解法だと思いますが、今後もライフワークとしてより良い案について考えて行く所存です。

 

追記:

Twitterにて @Arts_Policy さんから非常に建設的な提案をいただいたので、追記します (2018/05/27)。

その他アート市場活性化に向けた政策について、改善案及び代案がある場合には、是非コメントいただければと思います。