美術産業へのコロナ関連支援はデジタルアーカイブを基軸にすべき

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  1. 下策: 美術関係者を対象とした給付金交付
  2. 中策: 美術館のデジタルアーカイブ推進
  3. 上策: 中策 + リーディングミュージアム私案

新型コロナウイルスの影響を受け、国内の文化芸術支援策も出揃いつつあります

その内容は多岐に渡っており、各々が想定する目的も生活保障、産業振興、雇用創出など様々です。

個人的にはかなり充実していると感じますが、美術産業に対する施策に関しては思う所があるため、

  • なし崩し的に行われ得るが好ましくない政策→下策
  • 常識的に考えればここに落ち着くであろう政策→中策
  • 変則的かつ実行困難だが効果がありそうな政策→上策

と区分して意見及び提案を記そうと思います。

下策: 美術関係者を対象とした給付金交付

まず最初に、美術関係者を対象とする給付金交付は (求めたくなる気持ちは理解出来ものの) 自分は避けるべきと考えます。

これは以下2つの規範的な理由によるものです。

1に、政府は生活保障に関する措置を業種別に行うべきでない。

コロナ禍の「自粛」で困窮する人々への救済は当然必要ですが、そのセーフティーネットは広く個人に適用可能なルールで行うべきであり、業種別に色を変えて良い類のものではありません。

*言い換えれば、こと生活保障に関しては「美術は人類に不可欠だから再分配を増やすべき」も「美術は不要不急だから再分配を減らしてその分を医療従事者に回すべき」も、共に手前の発想からして誤りなのです。

故に美術への支援は、業種区分無き施策 (e.g., 持続化給付金, 納税猶予, 昨年度との所得納税差額に応じた給付金, 生活保護) で生活を担保した上で、産業振興として行うべきです。

2に、政府は何が文化芸術なのかを判断すべきでない。

これは伝統的に言及されている (e.g., アームスレングス原則) ため詳細な説明は不要だと思いますが、給付対象たる「芸術家」や「アート」などを政府が選別する状況は規範的に望ましくありません。

 *またこのような選別は、その正当性を担保するために煩雑な事務手続きや専門家への業務委託がどうしても必要になると思われ、再分配政策としても非効率です。

故に美術への支援は (産業振興政策を含め) 極力文化芸術の価値判断に干渉する選別を避けるべきです。

中策: 美術館のデジタルアーカイブ推進

以上の規範を考慮した現実的な支援策は、美術館のデジタルアーカイブ推進でしょう。

具体的には、収蔵作品の 画像及びキャプションデータのオープンアクセス化 及び 来歴や貸与記録を美術館同士で連携して管理出来る共有データベースの作成 を公共事業として行う施策です。

これには…

  • 美術産業の振興及び雇用創出にある程度寄与出来る
  • 既にある収蔵作品のデジタルアーカイブは文化芸術の価値判断に干渉しない
  • コロナ禍で展示よりもアーカイブに公的意義を求めざるを得ない美術館の実態に適する

など様々なメリットが存在します。

また、この事業にコミットする美術館に対し毎年の予算を増額するなどのインセンティブを与えることで、制度運用の継続性も担保出来るでしょう。

オープンアクセス化やデータベース作成は以前から必要性が言及されており、世界恐慌後の公共政策として米国が The Index of American Design を編纂した先例も考えれば、これを機に本格的にデジタルアーカイブに取り組むことは常識的な選択かと思います。

上策: 中策 + リーディングミュージアム私案

最後に、デジタルアーカイブ推進を通じた産業振興は、およそ2年前に提案したリーディングミュージアム私案との統合で更に効果的となる旨も指摘しておきます。

リーディングミュージアム私案は、現行の寄託制度を税額控除オプションを伴う「見せる収蔵庫」に拡張することで、価値判断への干渉を抑えつつ美術市場の活性化を目指そうという提案です (詳細は過去記事を参照のこと)。

この私案と中策の共有データベースは、

  • 共有データベースをprivate, public2種類作成する
  • 民間からの寄託作品はprivateデータベース(非公開)で管理する
  • 所有者から要望があった場合にはpublicデータベースに移行する
  • 移行作品は画像やキャプションが公開されかつ税額控除の対象となる

といった形式で一体運用出来るため、非常に相性が良いのです。

寄託制度の変更を伴う点がネックですが、リーディングミュージアム私案との統合まで実現した暁にはデジタルアーカイブ推進は非常に強力な美術産業振興策となるでしょう。

おわりに

今回は、コロナの影響を受けた美術産業に対する支援策として、下策、中策、上策をそれぞれ示しました。

これらは未だアイデア段階ですが、可能ならば今後どこかしらの文脈と接続させつつ、学術論文として十分なクオリティにまで仕上げたいなとも考えております。

美術産業については以下のような活動も行っているので、こちらも是非ご覧下さい。

また、美術産業に初めて触れる方はこちらの過去記事をご活用下さい。