- rmutt.ethとはどんな作品か
- ポジティブなフィードバック
- ネガティブなフィードバック
2022年3月11~13日に開催されたNFTアートフェアMetaFairへ参加し、アーティストとして自作を出品しました。
作品は非常にシンプルで、rmutt.ethという名前のENS (Ethereum Name Service) name です。
ざっくりとした解説: rmuttはマルセル・デュシャンの偽名であり、彼が市販の便器にこの名前でサインをして芸術作品と言い張ったのが、かの有名な『泉』です。ENSは、可読性の低いEthereumアドレス (e.g., 0x165CD37b4C644C2921454429E7F9358d18A45e14) に任意の文字列を対応させる権利をNFTとして取り扱っています。つまりrmutt.ethというNFTを保有するEthereumアドレスは、トークンやNFTを別のアドレスへ送る際、rmuttの名前でサイン (署名) することが可能となるのです。
残念ながら会期中に作品は売れなかったのですが、当日は予想をはるかに超える人々が来場し、数多くのフィードバックをいただきました。
そこで今回はこのフィードバックの内容を、自分のコメントおよびディフェンスを交えつつ公開します。
現代美術の世界では通常作り手がこういったことは行いませんが、アート視点とクリプト視点で大きく異なるフィードバックは非常に面白く、内容の公開がきっと両文脈の交流と発展に貢献すると感じたため決行することにしました。
ポジティブなフィードバック
作品がブロックチェーン内で完結しており美しいと思う。
コメント: ありがとうございます。仰るとおり、ENSはブロックチェーン外にある画像や動画と紐付くものではないので、一般的なNFTと比べて自律分散的な要素を濃く残せていると思います (その分見た目は地味ですが…)。
署名する権利を取引可能にしている点が、ただデュシャンをなぞっているだけでは無く良いと思った。
コメント: ありがとうございます。これは指摘されるまで自分も気づきませんでした。結果的にNFTならではの要素を現代美術の文脈にぶつけることが出来たのは非常に良かったと思います。
ENSはDNS (Domain Name Service) とのアナロジーで捉えられることが多いが、署名に着目するのはユニークで面白いと思った。
コメント: ありがとうございます。これも言われてみれば確かにそうだなと後から感じました。現代美術に署名の概念を用いた先例があったからこそ、ENSに新しい解釈を与えることが出来たなと思います。
1番目と3番目がクリプト畑の方からのフィードバック、2番目がアート畑の方からのフィードバックでした。
こうして書いてみると、美術品の制作は論文執筆と違って解釈の余地を残すことが重要なんだなあと改めて痛感します。作り手の想定を超えた解釈を引き出すほどに喚起力がある作品をもっと生み出したい。
ネガティブなフィードバック
結局やっていることはデュシャンのオマージュに過ぎないのではないか?
ディフェンス: 言われた当時は確かにそうかもなあーと思いましたが、ポジティブなフィードバックにある通り、署名する権利を取引可能にしている点に単なるオマージュには留まらない同時代性が見い出せるのではないかと思います。
これだけ見ても主張がわかりにくいので、映像作品などにした方が良いと思う。
ディフェンス: 作品が説明的になることを防ぎたいという理由から、これには反対です。あくまで主観ですが、見た目の情報量に比べて多層的なコンセプトがギュッと詰まっているモノが、良い美術作品だと考えています。他方で鑑賞者に意図が伝わらなければ自己満足になってしまうので、作品に喚起力を持たせられるよう精進します。
OpenSeaの販売ページにいいねが1つも付いていないのがしょっぱい。
ディフェンス: これには反論の余地がありません。あえてディフェンスするならば「アート畑の人向けに制作した作品だからOpeaSeaでのいいね数はあまり関係ない」ということになるでしょうか。なんとも苦しい言い訳です。もっと事前に宣伝して、クリプト界隈での認知度も高めておくべきでした。
電子署名よりも自律分散的な設計を美術表現にした方がブロックチェーン的ではないか?
ディフェンス: 全く仰るとおりだと思います。自分もこれまでブログや原稿で同様の意見を述べてきました。その一方で、アートとクリプトの文脈を繋ぐ上では (デュシャンおよびレディメイドとの噛み合わせの良さから) 電子署名に着目した表現にも十分意義があると考えます。
1番目と2番目がアート畑の方からのフィードバック、3番目と4番目がクリプト畑の方からのフィードバックでした。
おわりに
一連のフィードバックについて、皆さんはどう感じたでしょうか?
rmutt.ethはOpenSeaに常に表示されているので、興味のある方はぜひ気軽にオファーを出していただければと思います。