- 現代美術を産業として捉えた際の基本的な構造を図示
- 各プレイヤーの短期的な目的は (もちろん) 利益を上げること
- しかし彼らの最終的な目的は自身が関わる作品や動向の名を美術史に刻むこと
現代美術産業の構造は、しばしば「様々なプレイヤーが複雑に相互影響しており〜」と言った曖昧な表現で片付けられてしまいます。
この現状に問題意識を感じたため、生産的な議論を促進すべく各プレイヤーの関係性を {民間, 公共}部門 及び {プライマリー, セカンダリー}市場 の区分に基づき整理しました。
もちろん単純化されている側面もありますが、大部分の特徴はこの図でカバー出来ているのではないかと思います。
以下、各プレーヤーに関する説明です。
Private Sector:
- Artist
- 作品を制作する
- 多くの場合ギャラリーに所属している
- キャリアを積んだアーティストは複数のギャラリーと契約を結んでいる場合もある
- 主にギャラリーを通したプライマリー市場での販売から収益を得る
- Gallery
- 作品の販売のみならず、所属アーティストのマネジメントも行う
- 車のショールーム + 芸能事務所に近いイメージ
- 一般に売上額を50%-50%でアーティストと分け合う (配分はギャラリーのマネジメント方針に依る)
- 各アーティストの販売価格帯は基本的に下げず、経時的にゆっくりと上昇させる
- 自分のギャラリーのみならずアートフェア (*本資料では単純化のため説明を割愛) に出展して販売することも多い
- また、所属アーティストが存在しない場合もある
- この場合プライマリー市場での販売もあればセカンダリー市場での販売もある
- Critique
- アーティストの作品群やギャラリーの展示、あるいは美術館の企画展を批評する
- 批評対象を美術史に刻む場合の位置付けを提案する
- コレクターに新たな評価軸を示すことで、マーケットでの評価に美学・美術史的な観点を反映させる
- アーティストやギャラリーと組んで動向を作り上げる場合も多い e.g., 未来派
- Auction
- セカンダリー市場の取引を担う
- 販売手数料から収益を得る
- オークションの落札価格はギャラリーがプライマリーでの価格を決める際の指標として機能する
- 最近ではアーティストが自作を直接オークションで販売することも無いことは無い
- すなわち、基本的にギャラリーはプライマリー市場、オークションはセカンダリー市場を担うが、例外もある
- Collector
- 作品を購入する
- プライマリー市場, セカンダリー市場のどちらからでも購入可能
- 長期的な投資として、あるいは節税のための資産として購入する場合も多い (国によっては固定資産税や相続税が免除になる)
- いわゆる良いコレクター: 若手アーティストの作品を買う→10年以上所有する→値段が上がったものをオークションで手放す→その利益で次の時代の若手アーティストの作品を多く買う→(繰り返し…)
- 著名なコレクターの場合は、その人のコレクションに含まれたという情報だけで作家の市場での評価が高まる
- Advisor (Agent)
- コレクターに対して購入すべき作品の助言を行う
- 作品を購入したいが何買えば良いかわからない、というお金持ちのサポート
- 美術史とマーケットの知識が共に求められる
- 日本ではまだあまり認知されていない
- 個人のみならず法人を相手にすることもある
Public Sector:
- Museum
- 民間部門で十分に評価された作品を公共の場に保存して、誰でも観ることが出来るようにする (*本資料では単純化のため私立美術館の説明は割愛)
- 美術館への収蔵が決まった作品は「美術史に名が刻まれる」可能性が高まるため、それ以降当該アーティストの市場での評価額が上がる
- 美術史を形作る上での権威的な役割を担い、アーティストのキャリアにとって自作が有名な美術館に収蔵されることはゴールの1つである
- 収蔵作品を売却することはめったに行わないが(金銭を伴う)貸出は頻繁に行う
- 収蔵作品の選定はキュレーターが行う
- キュレーターは美術館の展示企画も担うため、美術史の専門的な知識が求められる
- キュレーターは基本的には各美術館に所属しているが、特に海外ではインディペンデント・キュレーターとして、ギャラリーや芸術祭 (*本資料では単純化のため説明を割愛) の展示を企画する場合もある
- Academia (Researcher)
- 大学で美術史や美学などの専門的な研究を行う
- キュレーターへの助言を通じて美術館の収蔵作品に影響を及ぼすこともある
- 修士あるいは博士取得後に上述のアドバイザーやエージェントとして活動する場合もある
- 50年あるいは100年後に彼らから頻繁に引用されることで作品や動向はようやく美術史に刻まれる
- アーティストや関係者の死後まで続く長い旅、過酷な競争の終着点
定期的に加筆修正していく予定なので、もし改善案があればコメントいただければ幸いです。また「ではどうすれば美術産業は活性化するのか?」という問いに対して、例えば自分はこのような考えを抱いています。
(おまけ) 過去に受けた質問たち
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- 美術史に名を残すことを目的とする、真剣にアートに向き合っている人達はどのくらいの割合なのか?
- インディペンデントキュレーターと美術館に所属するキュレーターの比率はどの程度なのか?
- ギャラリーに所属するアーティストは頻繁に移籍を行うのか?
- ギャラリーにも格付けは存在するのか?
- 芸能事務所のように、1つのギャラリーが若手作家から大御所作家までを包摂しているのか?
- エージェントやアドバイザーは組織的に活動しているのか?その場合、利益相反やインサイダー取引のような問題にはどのように対処しているのか?