経済学メモ: Dixit-Stiglitz aggregatorの気持ち

  1. 3種類以上の財を扱えるから便利
  2. 各財の差別化度合いを調整出来るから便利
  3. 投入量と集計量が同じになるから便利

マクロ経済学を勉強していると、ある段階から突然Dixit-Stiglitz aggregatorと呼ばれる次のような式がモデルに頻出するようになります。

    \[C = \left[\int_{i=0}^{1}C_{i}^{\phi}di\right]^{1/\phi}\]

十分な説明も無く当然のように使われ始めるため、ここで挫折してしまったり、あるいは「まあそんなのもあるんだな」と流してしまうケースが多いと感じています (自分もそうでした) 。

そこで本記事ではDixit-Stiglitz aggregatorが持つ特性について、CES生産関数→Ethier生産関数→Dixit-Stiglitz aggregator の順に議論を展開することで直感的に掴んで行こうと思います。

CES生産関数→Ethier生産関数 の一般化:

まず、以下の (最もシンプルな形の) CES生産関数 を考えた時、

    \[Y = \left[X_{0}^{\phi}+X_{1}^{\phi}\right]^{1/\phi}\]

Ethier (1982) による以下の生産関数は、その投入要素を2種類から n 種類へと一般化したものと捉えることが出来ます。

    \[Y = \left[\int_{i=0}^{n}X_{i}^{\phi}di\right]^{1/\phi}\]

実際に式を離散型 Y = \left[\sum_{i=0}^{n}X_{i}^{\phi}\right]^{1/\phi} に直した上て代替パラメーター \phi がとる値を変更してみると、

\phi=1の場合:

Y = \left[\sum_{i=0}^{n}X_{i}^{\phi}\right]^{1/\phi}=\sum_{i=0}^{n}X_{i}=X_{0}+X_{1}+ ... +X_{n},

\phi \to 0の場合:

\lim_{\phi \to 0}\left[\sum_{i=0}^{n}X_{i}^{\phi}\right]^{1/\phi}=\prod_{i=0}^{n}X_{i}^{\frac{1}{n}}=X_{0}^{\frac{1}{n}}\cdot X_{1}^{\frac{1}{n}}\cdot ... \cdot X_{n}^{\frac{1}{n}},

\phi \to -\inftyの場合:

\lim_{\phi \to -\infty}\left[\sum_{i=0}^{n}X_{i}^{\phi}\right]^{1/\phi}=\min \{ X_{0}, X_{1}, ... , X_{n}\}.

と、それぞれ線形、コブ=ダグラス、レオンチェフに対応する関数型となります。

*コブ=ダグラスとレオンチェフに関しては計算が結構ややこしいですが、CES生産関数に対する解説webページを見つけたので、それを参照しつつ応用問題として試みて下さい (こちらのページも有用だと思います)。

 

Ethier生産関数→Dixit-Stiglitz aggregator のインデックス化:

Ethier生産関数と同じ構造は、Spence (1976)Dixit and Stiglitz (1977) らによって、差別化された各財の消費から得られる効用を表現するために用いられていました。具体的には、

    \[C = \left[\int_{i=0}^{n}C_{i}^{\phi}di\right]^{1/\phi}\]

n 種類のバラエティを持つ各財を C_{i} ずつ消費した結果得られる効用と捉えます。この時、代替パラメーター \phi は各財の差別化の度合いを示しています。

\phi=1 (線形) の場合: 各財は完全に替えが効くので全く差別化されていない

\phi \to 0 (コブ=ダグラス型) の場合: 各財はある程度差別化されている

\phi \to -\infty (レオンチェフ型) の場合: 各財は全く替えが効かないので完全に差別化されている

この形も様々な局面で用いられますが、Dixit-Stiglitz aggregatorでは、バラエティの取り得る範囲が [0,n] では無く [0,1] となっています。

その意義を知るために、C = \left[\int_{i=0}^{n}C_{i}^{\phi}di\right]^{1/\phi} において C_i=C^* が全ての i に対して成立する (i.e., 各財に対する消費量が全て共通水準 C^* である) と仮定してみましょう。この場合、式は次のように整理することが可能です。

    \[C = \left[n\cdot C^{*\:\phi}\right]^{1/\phi} = n^{1/\phi}\cdot C^{*}\]

したがって、n=1ならばC=C^{*}が成立します。つまりDixit-Stiglitz aggregatorでは、バラエティの範囲を [0,1] と定義したことにより、各財に対する投入量が全て共通水準である場合には集計量もまた共通水準となるのです。

このような特性が、例えば C_{i}/C で相対的な消費量を表現するといった風に、Dixit-Stiglitz aggregatorをある種のインデックスとして用いることを可能にしています。

まとめ:

恐らく最初に誰もが「なぜわざわざこんな複雑な形を使うの?」と疑問に思うであろうDixit-Stiglitz aggregator C = \left[\int_{i=0}^{1}C_{i}^{\phi}di\right]^{1/\phi} ですが、

  • 3種類以上の財を扱える
  • 各財の差別化度合いを調整出来る
  • 各財の投入量が同じならば集計量もその水準になる

という便利な特徴があるからこそ、広く利用されている訳です。